概説
●楕円ハロとは
見た目は光源の周りに現れる小さな楕円の輪。通常は一重の輪として観測されるが、時に何重にも輪が光源を囲むことがある。基本的に白色だが、稀に内側が赤、外側が青の虹色に分光することもある(このことから楕円ハロは屈折が関与していることが分かる)。
楕円ハロを作る結晶が充分屈折を起こせるほど良質でない場合、散乱、反射効果が優位となって楕円光環、太陽柱、その混合として観察される。その後時間経過で楕円ハロになることもあるため、太陽や月が楕円のように見えるときは是非しばらく注目してみて欲しい。
楕円ハロを、その大きさによってヒシンクのハロ(縦径10°横径5°)、シュレディンガーのハロ(縦径7°横径4°)の2つに分けることがあるが、光源高度によって視半径(特に縦径)が大きく変わるためあまり正確ではない。また、実測やシミュレーションの結果から、3種類もしくはそれ以上の種類が予想されている。
楕円ハロはいくつかの特異な性質がある。
①極めて小さい
先に述べたように視半径は通常のハロに比べて大変小さく、太陽の周りに出現しても気づくのが難しい。そのため記録に残っているのは、太陽が雲に程よく隠れているときや、光量が少ない月によるものが多い。
②出現時間が短い
出現時間は数秒~数分と極めて短い。これもまた観測を難しくさせる一因である。しかし中には数十分出現し続けた記録もある。
③活発な形状変化
映像等の記録で、視半径が活発に変化する楕円ハロを捉えたものが散見される。これは形状が比較的安定で均一であることの多い氷晶、及びそれによって引き起こされる現象では考えにくい特徴であり、形状にバラエティのある雪結晶の性質を暗に示しているのかもしれない。
④局所的出現
楕円ハロは狭い範囲でしか観測されない。[2]
⑤母雲は高積雲、層積雲、層雲
通常のハロは巻層雲によって形成されるが、楕円ハロは高積雲、層積雲、層雲によって形成されることが知られている。[2]
⑥太陽柱を伴う
楕円ハロはしばしば太陽柱を伴う。これは楕円ハロがプレート配向によって起きるとされることから容易に想像がつく。そして⑤の理由から太陽柱以外の氷晶による大気光学現象を伴うことは基本的に無い。もし他の現象があったら、それは偶然上層に巻層雲があったということになるのだろう。
⑦ボトリンガーリングとの関係
・Marko Riikonen らが飛行機上でボトリンガーリングを観測した後、着陸後に地上から楕円ハロを観測した。[3]
・平たいピラミッド型氷晶によってどちらの現象も再現出来る。
といった理由から両者は非常に密接な関係が示唆されている。一方で、以下の理由から必ずしも同じ氷晶によって出来るとは限らないとも考えられる。
・ダイヤモンドダストで楕円ハロを観測した際、映日点にボトリンガーリングが出現しなかった。
・どちらも「平たいピラミッド型氷晶」でシミュレーション出来ると述べたものの、頂角は楕円ハロでは約170~176°、ボトリンガーリングでは約174~178°でないと写真の視半径と合致しないケースがあった。[4]
●歴史
楕円ハロの最初の記録とされているものは、1901年6月28日、オランダにてC. W. Hissinkがスケッチしたものである。この時同時に22°ハロとタンジェントアークと思われる現象も記録された。(スケッチ内の楕円ハロとされている小さなハロは、現在では9°カラムアークだったのではないかとも疑われている。)[1] 以降複数回楕円ハロの報告があったが「存在が疑わしいハロ」として扱われ続けた。1987年12月7日に Esa と Timo Kinnunen がフィンランド、エスポーで縦径約7°の楕円ハロの撮影に初めて成功し、実在する現象として認知されるようになった。
●出現頻度
稀にしか観測できず、統計では年に1~2回程度しか出現しないとされる。[5] しかし上記の理由より見逃されていることも多いと思われ、実際はより多く出現すると予想される。
過去の記録から11月~2月、満月の時が狙い目である。
●原理
楕円ハロの原理は未だ解明されていない。いくつかの説があるが、このサイトでは最も有力と考えられている平たいピラミッド面(頂角170~176°)を持つ結晶によるものとしている。
コンピュータシミュレーションにおいてもこの氷晶モデルを使用すると、実際に観測されたものとかなり近いものが再現できる。しかし、氷晶は結晶学的に170~176°のような緩やかな角度を形成するのは難しいとされており、現にそういった形状の氷晶のサンプルは発見されていない。そのため初期の樹枝状雪結晶等(こちらはサンプルが採取されている)が有力な候補として挙げられている。[6]
他の説として、「振り子運動をしながら落下する氷晶による反射・散乱」、「旋回運動をしながら落下する氷晶による反射・散乱」等があるが、詳細はボトリンガーリングの項で述べる。
楕円ハロの責任結晶は、過冷却雲粒を含む中層以下の雲によって形成されると考えられている。また、記録から約-15~-16℃の条件下で責任結晶が形成されることが分かっている。[2][7]
●変形・出現光源高度
光源高度が高い時は真円に近く、光源高度が低い時は縦長の楕円(光源位置は楕円の中心ではなく上方に離心する)、更に低い時は楕円の下部が離れ∩字となり、地平線付近では上部も離れ湾曲した柱状になる。
類似する現象として楕円花粉光環があります。花粉の種類によっては楕円形のものがあり、それによって縦と横で回折角が変わることで楕円形の光環となります。
また、外接ハロはその形状から楕円ハロと呼ばれることがあります。外接ハロは大きく横長、真の楕円ハロは小さく縦長。紛らわしいですね。
[1]
J. Hakumäki M. Pekkola 「RARE VERTICALLY ELLIPTICAL HALOS」 1989
C.W.Hissink’s ellipse – 9° column arc or an elliptical halo?
[2] E. Tränkle and M. Riikonen 「Elliptical halos, Bottlinger’s rings, and theice-plate snow-star transition」 1996
[3] Bottlinger’s rings SUBMOON
[4] Bottlinger's Rings Atmospheric Optics
[5] TAIVAANVAHTIの統計ではフィンランドにて平均して年に1回とされている
[6]
Rare Elliptical Halo Lunar Elliptical Halo
Mika Sillanpää 「Unusual pyramidal ice in the atmosphere as the origin of elliptical halos」 1999
[7] More elliptical halos SUBMOON
観測例
日本における観測記録
2003年12月9日 21:28 東京
天空博物館
月光の楕円ハロ
2009年5月4日 東京
わぴちゃんのメモ帳
月光の楕円ハロ
2011年2月16日 23:50 ~ 17日 00:10 東京
月世界への招待
月光の楕円ハロ
2011年12月7日 18時頃 ?
健忘症的月なブログ
月光の楕円ハロ
2017年01月30日 日中 新潟?
⇒ 楕円光環
WHITE ICE
楕円ハロの疑いがある楕円光環、太陽光
2018月1月4日 20時頃 ?
2018年1月31日 20:35 三重
科学する空
月光の楕円ハロ
2018年02月03日 10時少し前 新潟?
WHITE ICE
楕円ハロの疑いがある楕円光環、太陽光
2018年02月10日 日中 新潟?
WHITE ICE
二重の楕円ハロ、太陽光
2018年5月27日 10頃 北海道
2020年1月12日 06:06 ~ 06:28 静岡?
⇒ 月光環暈
富士山と花のページ
月光の楕円ハロ
2020年11月29日 11頃 埼玉
2020年12月27日 12:58 ~ 13:08 三重
科学する空
楕円光環から楕円ハロに変化した例、太陽光
2020年12月27日 18時~19時頃 東京
わぴちゃんのメモ帳
月光の楕円ハロ
Atmospheric Optics
分光が確認できる、月光による楕円ハロ
Atmospheric Optics
活発に形が変わる楕円ハロと幻月環
Atmospheric Optics
ダイヤモンドダストによる楕円ハロと映日、太陽光
Atmospheric Optics
ダイヤモンドダストによる楕円ハロ、太陽光
Atmospheric Optics
楕円光環から楕円ハロに変化した例、太陽光
Atmospheric Optics
月光の彩雲と楕円ハロ、その他の現象
他の形態
●月の楕円ハロ
楕円ハロは極めて小さく、光源のまぶしさでつぶれてしまうことも多い。そのため普通のハロとは異なり、楕円ハロの記録は月によるものが太陽によるものより多いように思われる。
●サンピラーエコー
太陽柱の両側に現れる少し湾曲した光柱。いくつかの観測例はあるものの詳細は不明である。2001年12月23日にフィンランドのコトカ、クーサンコスキ、エスポーで同時に観測されたことから、クリスマスアークと呼ばれる。
楕円ハロの仲間、もしくは光源高度が低い時の楕円ハロとも考えられているためこのページにまとめたが、広範囲に観測されたこと(楕円ハロは特徴として観測範囲が狭い)や平たいピラミダル氷晶でのシミュレーションが上手く適合しないことから、異なる氷晶の可能性もある。
Atmospheric Optics
太陽柱の両脇にある「エコー」
⇒ An unknown halo and other displays by Jukka Ruoskanen
The Halo Vault
太陽柱の両脇にある光の柱
⇒ Rare halos - 27.1.2023 at 18.35 - 27.1.2023 at 19.55 Jämsä
Taivaanvahti
人工灯による光柱と両脇にある光の柱